サールニオ氏が手がけた作品(製品化されたものも、試作のみのものも)の椅子ばかり30点が紹介された作品展。
椅子という家具に果てしない魅力を感じると言っておられたサールニオ氏。人が座るというコンセプトがはっきりとしている家具、椅子。家具デザイナーとして、もっとも挑戦する気持ちがかきたてられると何度もおっしゃっていました。
笑顔の素敵な目の優しいおじ様で、とても穏やかな方でした。会場に来られたお客様から「この作品が特に好き」と言われたときに、顔を紅潮させながら嬉しそうに微笑む笑顔が、なんとも恥ずかしいという心持と、嬉しくて仕方がないという表情でした。
日本の街を見て、建物の色がばらばらだったり、向きがあっちこっちに向いていたり、統一性がないのが不思議とおっしゃっりながらも、六本木ヒルズのモダン・アート美術館(ですよね)はとても面白かったと目を輝かせていました。
作品展から1年。セミナーと取材を通訳として傍らで過ごさせていただいた、そんな幸せ者の”使命”として、会期中に開催されたセミナーの報告させていただきます。
写真:Martela社
東京でのChairmania展より
「フィンランド国内の家具産業の現在と将来について」
インテリア・アーキテクト ティモ・サールニオ氏
〜フィンランドの家具産業を数字から検証する〜
フィンランド国内で家具産業に従事者は、約1万人。家具メーカー数は、1,900件。内従業員200名を超えるのは、5社のみで、100名前後の中堅企業は、10社。その他は、小企業です。この小企業と数えられる企業の内の約半分は、わずか数名という規模にすぎません。
フィンランド国内で家具産業が集中している地域は、南ポホヤンマー地方(フィンランド西海岸地域)に、約60%。20%は、パイヤット-ハメ地方(首都ヘルシンキから北へ100qの町ラハティ付近)に集中しています。
フィンランド国内で生産されている家具の内、70%は国内向けで、海外向けはわずか30%にとどまります。輸出の主な相手国は、スウェーデン、ロシア、英国、ドイツ、アメリカ合衆国。実は、量的には、フィンランド国内へ輸入されるものの方が輸出されるものよりも多いのです。
フィンランド国内で生産されている家具の内、65%が家庭用家具で、12%がオフィス家具。残りは、キッチン用、店舗用、病院用、車、バス、トラム、列車などの車両内装用などに使用されるインテリアや家具、もしくは設備の一部です。
〜家具産業に従事するスタッフの養成と現実〜
家具デザイナーの養成は、ヘルシンキ工芸大学デザイン学科で行われます。ここでは、学士、修士、博士の各号を取得できますが、大学に入学するためには、約1週間にわたる入試を経て選抜され、入学できる学生数は、希望者の内わずかに6%という厳しいものです。家具デザイナーの養成は、この工芸大学のほかにも、全国にある職業高等専門学校12校で行われます。この職業高等専門学校では、主にデザイナーの実務的な仕事を学びます。
フィンランドには職業団体として、フィンランド・インテリア協会(SIO)がありますが、この協会にはインテリア・アーキテクトと家具デザイナー360名が所属しています。同協会に所属しているメンバーの内、10%の人が家具デザインを手がけていますが、家具デザインだけで生活ができている人は、その10%の人のわずか半分にしかすぎません。
フィンランド国内の大規模と呼ばれる家具企業の数がわずかに5社しかないため、新卒のデザイナーたちは職場をみつけるのが難しく、残念ながらデザイナーがこの家具業界で働ける場所は、わずかしかありません。
〜デザイナーとメディア〜
フィンランド国内で活動している家具デザイナーたちは、みなが知人ということができます。そして、この世界には、公の場で他のデザイナーの作品を批判することは、慎むべしという暗黙の了解があります。これは、メディアなども例外ではありません。そこには、メディアがデザイナーや、デザイナーが手がけた作品について批評すると事実をゆがめてしまうという考え方があるようです。
それはつまり、家具デザイナーが手がける仕事、つまり作品は、市販されるか、公共施設で使われるものなので、公のものではありますが、メディアによって作品についての理解がゆがめられてしまうことを避けるためという目的のようです。
一方、デザイン界では、デザイナーや作品を有名に、いわゆる箔をつけるために、また、評価を上げるためにさまざまな組織が、優れた作品や、仕事に対して賞を授与します。良い作品については、もちろん賞が授与されますが、悪い作品、評価に値しない作品についても賞が用意されています。私は、これも賞の持つ大切な役割のひとつだと思います。こんな役割を担う賞には、例えば、ワースト・オブ・ザ・イヤーという賞があります。この賞には、複製品、アイディアのコピーを防ぐという役割があると思うのです。
将来、フィンランド国内には、完全オートメーション化で、24時間稼動で家具を作り、価格的にもデザイン的にも国際市場で競争し続けることができる商品を作り出す、数社の大企業家具メーカーが残るだけになると思います。それに伴い、家具産業が必要とする仕事場の数も減少するでしょう。一方、大企業の他に、テイラーメードで、お客様の注文に沿って、手作りで家具を作り、何かしらに特化した小さな家具企業も残ると思います。つまり、中堅の家具メーカーは、なくなってしまうと思うのです。
ティモ・サールニオ氏の椅子コレクションから、特に注目された作品を紹介
Picco (ピッコ) コレクション1997年発表
スティール性の脚部をつけた成型合板製の椅子。たいへん一般的な作り方をした椅子で、座面のカーブ、背もたれ部の薄さ、座面前部の軽いカーブと脚部と座面の取り付け方が熟考されている点などが、他の椅子とこのPiccoが大きく違う部分です。
このどこにでも使っていただけることを想定した椅子の成功が、このデザインがその後、シリーズ化され、生産が続くことへとつながりました。おかげさまで様々な使用シチュエーションを想定したバリエーションをデザインし、テーブルなどのデザインへと広がりました。最終的には、大手企業のロビーフロアで使用する家具、肘掛け椅子・ベンチ・ソファ・マガジンラック・コート掛けへとプロダクツの種類が広がりました。製造メーカー:P.O.Korhonen社。
Mobilo (モビロ) 2001年発表
オフィス家具は、最近は移動されることが頻繁になってきました。これは、昨今の企業内組織変更が頻繁になってきているという傾向が大いに反映されています。こんな企業の形態の変化に対応しやすいようにとデザインしたのが、キャスター付きの椅子モビロです。
製造メーカー:P.O.Korhonen社
Flax (フラックス) 2004年発表
新しい素材と新しい技術が、新しいデザインを生み出しました。この椅子をデザインする際、私は人が座るということに対しても新しい発想で臨みました。まず、人が腰をかける座面の部分の深さを浅くすることができないかと考えました。もしもこれが成功すれば、小さい椅子を作ることができ、小さなスペースで営業しているカフェやレストランの家具として有効利用できると考えたのです。
そのために、座面の深さを浅くするのに伴って、一般の椅子よりも座面の傾斜を深くしました。(一般の椅子の座面の深さは40p。Flaxは、30p。座面の傾斜は、一般の椅子の場合は、3度なのに対し、Flaxは、5度。)また、背もたれのカーブを、通常のものよりもきつくしました。この二つのポイントをデザインに反映させることで、人が椅子に腰掛けるとき、椅子が人の座る体勢を自然に作り出すということになるのです。普通の椅子の場合、きちんと奥まで腰をかけずに、背面と腰の間に空間ができます。この椅子の場合は、そのようなことが起こらないのです。
素材について。フラックスは、ファイバー繊維をゴムで固めたものを使用しています。おそらく、この素材は、世界で初めて椅子用の素材として発表したものだと思います。この素材の良さは、成型合板と違い、好きな形にまるでゴムのように自由に成型することができることです。
これからしばらくは、このタイプのデザインが成功を収め、一般的な椅子のモデルなどにも発展させていけることを考えて行きたいと思っています。


そしてちょうどこの展覧会レポ、ありがたいです。
家具の70%が国内向け生産だということに驚きました。てっきり輸出メインだとばかり思っていたので。
あと、ワースト・オブ・ザ・イヤーの話も新鮮でした。
フィンランドの、デザインや家具に対する独特の意識の高さが感じられて勉強になりました。
なが〜い「レポート」にお付き合いいただきありがとうございました。
会場に来られなかった方などに、楽しんでいただければ幸せです。